中西準子『東海道 水の旅』

自転車に乗っていると川やダム、工場など、水に関係のある風景に良く出会うので手に取った一冊。東京から大阪まで新幹線に乗って窓から見える「水に関係のある事象」について解説されている。1991年発行の古い本だけれど、話題は飲み水、川の汚染、工場の中での排水処理、ダム、魚、農業用水などに及んでいて、いろいろな問題がありつつも都市や農村の豊かさが水によって支えられているということがよく分かった。最近の状況を反映した類書は無いだろうか、、、。

もしも、共同処理場ができていたら、企業は生産の方法を変えず、処理場に排水を流しつづけただろうと思います。〜しかし、共同処理場ができないとわかったとき、自分で処理しなければならないとわかったとき、企業はそれまでと同じ方法で生産をつづけ、排水を処理するより、生産方法自体を変えたほうがいいと判断したのです。そして、これが社会全体でみてももっとも合理的な解決策なのです。

あらゆるものがそうですが、多くの目的を共存させていかねばならないのです。そういうのを、専門用語で多目的最適化の問題といいます。つまり、いくつかの目的を考慮して、もっともいい計画をつくるということです。〜そのときいつも思うことは、日本ではあらゆるところで、つねにただ一つの目的だけにつっぱしるようなことが多く、いろんな目的を調整するという方法が〜国や県の政策に反映されることがないということです。

私は、長い間この流域下水道に反対してきました。それは、この境川からはじまり、これを書いているいまも、まだ完全には終わっていません。土地収用があり、機動隊とのたたかいがあり、裁判がつづいたのです。〜「これはだめだ」と主張し、それが多くの人の同感をえられれば、すこしは変わるということです。私は、この「すこし変わる」ということを、高く評価したいのです。

その国の豊かさを測る指標の一つとして、私は大きな湖をきれいに保てるかということを選んでいます。誰もそんなことをいう人がいないのは知っています。これは、私の独自の判断基準です。湖から発信される汚染への警告を、どのくらい真剣に受け止められるか、これが民度の高さだと思うのです。

日本は、一九六〇年代なかばから高度経済成長期に入りました。その産業の主力は、製鉄や化学を中心とした重工業で、ひじょうにたくさんの水を使いました。そのかなりの水を地下水で補いました。工場は、ただ同然で、しかも即座に水を得ることができたのです。〜もし地下水の取水が制限されていれば、あの高度経済成長は、ずっとずっと成長速度の遅いものになっていたのではないかと思います。

東海道 水の旅 (岩波ジュニア新書)

東海道 水の旅 (岩波ジュニア新書)