鷲谷いづみ『サクラソウの目―繁殖と保全の生態学』

田島ヶ原のことを知るきっかけになった本。図書館で借りて再読。

これらクローン成長だけで分布を広げる植物は、種子をつくることに物質やエネルギーを使わなくてよい。だからきわめて旺盛にクローン成長を行う。一見非常に効率的で、いいことづくめに感じられるこれらの種子繁殖をしない植物であるが、これらははたして真の成功者といえるのであろうか。〜つまり何十万年、何百万年といった時間スケールで眺めてみると、そのような系統はいずれも著しく短命であることがわかる。というのは、減数分裂を省略して無性的なクローン成長で維持されている系統(種、変種など)には、必ず近縁の有性生殖の系統が認められ、それが比較的最近にその有性生殖の系統から分かれたことを示すことができるからである。

進化が試行錯誤であるということ、それも地球上の生物を多様にしてきた一因である。もしそうではなく、進化が何らかのプランに基づくものだとしたら、完璧で理想的な決まったタイプの生物だけからなる多様性の乏しい世界ができることだろう。しかも、ある時点で完璧なタイプは、地球環境の変動に伴って必ず時代遅れになるときが来る。そのときには、完璧であったはずの生物の絶滅がおこるはずである。進化が試行錯誤であり、完璧なタイプを生むようなものでなかったから、環境の変化の試練を受けても生命は脈々と現在までつながることができたのである。

植物と昆虫の進化を通じたこの闘いでは、長い進化の歴史の中ではそのいずれかが滅びしまうこともあったに違いない。しかし、両方がほどほどのところで妥協すれば、食べられるものと食べるものの共存が可能になる。つまり、防御は有効であるけれども完璧ではないという状態ならば、植物とそれを食べる虫は共存できる。植物を食べる虫(食害者)はいくらでもいるのに、植物が滅びてしまわないのは、そのような微妙なバランスが成り立っているからかもしれない。

サクラソウの目―繁殖と保全の生態学

サクラソウの目―繁殖と保全の生態学